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午後の紅茶いかがですか?(ポエムNO.2-93)

菜の花が風にゆれて

いちめんのいちめんの菜の花が 風にゆれて

畑にいた小鳥たちがパッと

砂利を空に放りあげたように飛び立つ。

谷川俊太郎さんも たぶんこんな

早春の風景に舌つづみを打ったことがあったに違いない。

ぼくはクルマで移動し

利根川のほとりをあとにする。

探し物はデートするためのお金であったり

三角州に流れついた老婆の悲嘆であったり

まだ若かったころの ミニスカートをはいたきみであったりする。

銀のスプーンで ちょっぴりシナモンを振った紅茶をかき混ぜながら

ぼくはきみのなつかしい面影や

もうくたびれてしまった歯ブラシや

四万温泉でなくした財布に挨拶を送る。

「あのう 午後の紅茶いかがですか?」と

あの日のきみが あらたまった

貴婦人のような優雅な声でいう。

そんなシーンもまたたくまに過ぎ去って

五年前 十年前にそのままうずくまっている黄色い帽子をかぶった記憶が

ぼくの隣りに寄り添ってくる。

「あのう 午後の紅茶いかがですか?」

ティーカップの中で菜の花がゆれる ゆれる。

ぼくの眼のふちについた涙を嘲笑うかのように。